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札幌高等裁判所 昭和50年(ネ)81号 判決 1975年12月02日

控訴人

大井あき子

控訴人

大井豊

右法定代理人親権者養父

大井賢一

同母

大井あき子

右控訴人両名訴訟代理人

入江五郎

被控訴人

東京海上火災保険株式会社

右代表者

塙善多

右訴訟代理人

田中登

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因第一項並びに第二項中前段部分主張の各事実は当事者間に争いのないところである。

二控訴人は亡繁は本件事故当時自賠法三条に定める「他人」に該当すると主張し、被控訴人はこれを争うので、この点について判断するに、<証拠>によれば、沢田は登別市内において、亡繁は栗山町内に居住して室蘭市内に事務所を有して、いずれも、所有貨物自動車による運送業を営む者であり、亡繁は嘗て沢田に被傭された経験もあり、友人関係にもあつた者であること、亡繁は当時「もみがら」を、栗山町所在の住居隣りの及川某所有工場から、新日鉄室蘭工場まで毎日運搬する仕事を請負つていたが、本件事故発生日の二日ほど前より所有貨物自動車が修理のため使用できなくなり、沢田に対し「もみがら」の運送を依頼したこと、沢田は当時業務が繁忙のため一旦これを拒絶したが、亡繁から、改めて、貨物自動車の貸与を依頼され、「もみがら」の右運搬が同人の定期的仕事であることを知つたので、これを承諾したが、亡繁が貸与自動車の運転に不慣れであることを危惧して、傭人である訴外川合幸夫にこれを運転させることとし、運転手付きで貸与することとしたこと、本件事故当日亡繁は自己所有の乗用車により午前五時頃沢田方に至りこれを沢田方に置いて、本件自動車に同乗して栗山町に向つたこと、その際、両者の間において、使用時間、使用料の明示的な取りきめはしなかつたが、運送は一回であること、登別市から栗山町、室蘭に至り、登別市に戻るまでの走行時間はほぼ三時間半ほどであることは了解されており、沢田は亡繁に対し、右自動車を同日中の自己の仕事に使用する予定のあることはこれを告げ、使用料の点は後刻相当額の支払については当然受けられるものと考えていたこと、亡繁は栗山町の自宅に午前九時頃帰宅し、「もみがら」を積み、別途運送を依頼した訴外港北運輸の貨物自動車を先発させ、本件自動車には買物に出る妻控訴人大井あき子(のち再婚して大井姓となる)をも同乗させて自宅を出発し、途中あき子を降し、室蘭に向い早来町に至つた同日午後二時二〇分頃本件事故に遭遇したもの(事故発生時刻及び場所は当事者間に争いがない)であること、以上を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定諸事実を総合すれば、亡繁は沢田に対し運送を依頼したものではなく、沢田から運転手付きで本件自動車を賃借して自己の営業利益のため運行せしめた運行供用者と認めるのが相当であり、前記認定の賃借期間、実際の運転担当者が沢田の傭人であつたとの点も前示判示を動かすに足らず、他に右判示を動かして控訴人の主張を認めるに足る証拠はない。

なお、沢田は本件自動車の所有者であり、上記認定の賃貸の態様並びに弁論の全趣旨からすれば、本件自動車の運行につき、一般第三者に対し運行供用者の地位を占めていたものと認めるのが相当であるが、沢田の運行支配は上記認定のとおり賃借人たる亡繁の運行支配を介して有していたに過ぎないものであることは明らかであるから、沢田が亡繁と共同運行供用者の地位にあつたからと云つて、本件自動車の運行に関し、亡繁が沢田との関係において「他人」性を保有するとの控訴人の主張には左袒できない。

三以上のとおりであり控訴人らの本訴請求は他の点の判断を俟つまでもなく失当であり、これを棄却した原判決は相当として維持すべきである。

よつて本件控訴は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小河八十次 神田鉱三 山田博)

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